陶器市ものがたり べんじゃらぎれ

 その昔、有田は弘法大師開山の黒髪山にやって来るお遍路(へんろ)さんたちの通り道。窯元や商家の人たちは、お遍路さんのため半端物や等外品をざるや箱に入れて売りました。ささやかですが、今の陶器市にも通じる風景です。明治29年、深川栄左衛門(えいざえもん)と田代呈一の主催で陶磁器品評会が開かれました。その後、この品評会と同時に開催されるようになった蔵ざらえ大売り出しが陶器市のはじまりです。4月29日から5月5日の会期中は、泉山から有田駅まで約5キロにもわたって店が並び、いつもは静かなやきものの里もこのときばかりは大いににぎわいます。人出は九州を中心に、全国から約85万人。磁器製品の安さ、豊富さ、そして独自の活気が毎年多くの人々を有田へと誘います。

買い手がいて、売り手がいて、子供も大人も、みんなの力を合わせて陶器市ができた。

 有田の幸平(こうびら)に桂雲寺(けいうんじ)というお寺があります。最初の品評会はここで開かれました。会場には赤いじゅうたんを敷いて珍しい製品がズラリと並び、大勢の見物の人が来てにぎわいました。現在のように商品を売ることを思いついたのは、当時の有田町青年会のリーダー深川六助です。大正4年陶器店に呼びかけ、等外品の蔵ざらえ大売り出しをはじめます。最初はあまり乗り気でなかった陶器店の人たちをリードしたのが青年会。客寄せのために福引きをしたり、謡曲会、短歌会、俳句会、碁将棋会、スポーツ大会と盛りだくさんの催しをしたり。ずいぶんとにぎやかだったことでしょうね。ふだんは小売りしていなかった有田の町で皿1枚、茶わん1個から売ってもらえるのですから、この蔵ざらえはあっという間に評判になります。しかも安い。回を追うごとにお客さんは増えました。といっても店が並んだのは上有田駅から赤絵町のあたりまでに100店ほど。現在の陶器市にくらべれば、ほんとうにささやかなものです。それでも、有田の商人にとっては、蔵のなかで眠っている半端物などを売りさばいてしまうチャンス。いつの間にか、品評会よりも蔵ざらえの方が盛んになっていきました。どの店も、陶器市が近づくと残業して売り出しの準備をしました。子供たちの活躍も見逃せません。まず、蔵から出してきた半端物などの汚れを落とし、きれいに洗うのは子供の役目。陶器市の日は、ざるに入れた茶わんや皿をいっしょうけんめいに売る子供の姿をあちこちで見かけたものです。

いろいろなことがあったけど、人、人、人でにぎわう陶器市がいい。

 もちろん大人だって負けていません。ひとりでも多くの人に来てもらえるように、宣伝にも力を入れました。たくさん買ってくれたお客さんには交通費をあげたり、駅まで無料で荷物を運んだり。蓄音機のラッパをメガホン代わりに客を呼び込むユーモラスな姿もありました。そのころのお客さんたちの交通機関はほとんどが国鉄。夕方の駅では、列車の窓から大きな荷物を押し込む風景が見られました。買う人も、売る人もけんめいだったからこそ、陶器市は盛んになっていったのでしょう。せっかく活気づいた陶器市も、昭和17年からは戦争のため中断します。その間の有田では、主に防衛食の容器や呂号兵器と呼ばれるロケットの部品やロケット用燃料の容器などをつくっていたそうです。戦後、昭和23年に陶器市は再開しました。この年、猿川の鉄砲水で大勢の人が亡くなるという悲しいでき事がありましたが、陶器市の方は、以来年々盛んになっていきます。もちろん商人たちも宣伝に余念がありません。陶器市に初日には1番列車で鳥栖まで出かけてビラを配ったり、配達のサービスをしたり。上有田駅前に火鉢をピラミッドのように積み上げて、みんなをたいそう驚かせました。おかげで人出もどんどん増えます。昭和39年からは陶器市のお買物団体列車が走り、全国各地から貸切りバスで買物に来るようになりました。昭和45年は大阪で万国博覧会が開かれた年。有田では万博に対抗して、いくつものイベントを企画します。役場前のちろりん広場ではゴーゴー大会、ミス陶器市のパレード、お祭りのようなにぎわいに36万人の人が集まりました。

もっともっともっと知ってほしい、楽しんでほしい陶器市。

 昔は風呂敷をかかえた着物姿の女性が多かった陶器市。今は帽子、スニーカー、リュックという軽装に商品のホコリを払ったり、キズを調べたりするときのための軍手という陶器市スタイルが定着しています。陶器市の楽しみは、なんといっても買い物ですから、みなさん商品をひとつひとつ手にとって熱心です。ひと口に「安い」といっても、お店によって商品によって価格が違うなんてよくある話。買い物上手は、いろいろな店をまわっていちばん安い商品を探します。あちこちの店の半端物を合わせて1セットをつくってしまうことだって可能。値引きのかけひきも楽しんで、陶器市のベテランたちは、ホントに上手に買い物します。ズラリと並んだ店々を存分に歩いて掘り出しものを見つけてください。ところで陶器市の楽しみは買い物だけ、そう思っていませんか。とんでもない。有田陶芸協会作家展、伝統工芸士展、肥前古陶磁名品展、三県俳句大会、九州短歌大会など陶器市の協賛行事もいろいろ行われています。また、陶器市のはじまりとなった“品評会”は、九州山口陶磁展として今も続いています。展示作品は販売されることもあり、芸術的価値の高い作品が、品質のわりに安く買えると好評。実は、この展示作品を目当てに陶器市へやって来る通(つう)もいるんです。ぜひ会場をのぞいてみてください。もうひとつ、陶祖・李参平への感謝の祭り陶祖祭も陶器市とともにずっと行われてきました。有田の人々にとって李参平は神さま。彼の故国、韓国からも毎年多くの人々を招き、今では国際的な祭りになっています。そして、陶器市が開催されるのは、とても美しい有田の自然を見ていただける季節。歩き疲れたら、ホッとひと息まわりの自然にも目を向けてください。

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